いふ話を知つてゐるかね。線路巡視がそれを見つけて、いろいろ調べて見ると、「おれは大統領デシヤネルだ」といつて威張るもんだから、テツキリ狂人だと思つて交番に渡したといふ話だが、それはほんとなんだよ。なに、公用でどこかへゆく途中、寝台車から抛りだされたまでのことさ。デシヤネルを「出車寝」と書いてもよささうだなんていつた奴がゐる。
これと何も関係はないが、これ以上喜劇的な場面を、フランス人といふ奴は日常平気で創作してゐるんだ。
★
それは、ある町医の診察室だ。何かの注射を受けに来た患者が、手術台の上に腹ばひになつて、尻をだしてゐる。
医者は、注射器を手に持つてその尻を撫で廻してゐる。
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医者 さう力をいれないで……。
患者 然し、先生、どこへやるんだか、はつきりおつしやつて下さい。その部分だけ力を抜いてゐればいいんでせう。
医者 この辺かな。(指で押す)
患者 その辺だとすると……。(片一方の尻つぺただけやはらかくしようと努力する)あいちツ。(もう針が刺さつてゐる)
医者 動かずに……。ぢつとして……。(注射液を徐々に押し
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