ゐる。
「どうぞ、お取り下さい。もつと沢山お取り下さい」
Wは盛んにフオオクを動かしてゐる。細君も、なか/\達者だ。
「ちつとも召上りませんね。こんなもので、お口に合ひますまいけれど……」
「いいえ、飛んでもない……」
僕が、どうしてもお代りをしないので、細君は、主人公の方へ、一寸合図らしい眼付をしながら、さもいひだし悪くさうに、
「でも、あの、御馳走は、もうこれだけなんでございますよ。あとはお菓子しか差しあげられませんの」
主人公は、これも、やや極りわるげに、
「さうさう、君はまだドイツの現状を御存じないんですね。肉がないんですよ。今日は殊に、なんにも手にはいらなかつたんです」
「ほんとにねえ、折角いらつしつて頂いて、これぢやあんまりですわ。ね。でも、こちらは、これが当り前なもんですから……」
「さうでしたか。そんなら……」
といつて、またオオル・ドウウヴルに手をだしかね、さうかといつて、「いや、それは万々承知してゐます」と鷹揚に辞退するためには、あんまり腹が空いてゐるんだ。
★
君は、フランスの前大統領デシヤネルが、寝間着姿で鉄道線路の上を這つてゐたと
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