に、もう少し肉を附けて欲しい。そこから幾分此の作には不足な「ニユアンス」が生れて来るに違ひない。
猿之助は始めからあまり情味を隠し過ぎてゐるやうに思ふ。冷くなり過ぎてゐる。
八百蔵は、立派だ。兄に対して、もつと打ち融けた話しぶりをした方がいゝ。「秋だなあ」は、困つた台詞だ。六ヶ敷いに違ひない。もつと、軽く、なんでも無く云つてしまふ文句だ。
嘉久子は、控え目に演じてゐるやうだが、此のひと、五年以来、すつかり役者になつた、はまり役も相当あるだらうが、これなどは研究すべき役の一つだと思ふ。
美禰子については別に云ふことなし。美しいと云ふのが褒めたことになれば、さう云つて置く。
父親の役は、成るほど、適役だと云へないのが残念である。もう少しどこか一点を見つめ得る男にして欲しい。凄味などはいらない。あんなあやふやな人物にしては面白味がない。殊に、長男の言葉に耳を傾ける、少くとも、それを遮らうとしない父親である。無性格な人物、さう云ふ感じがするのは演出上の失敗である。不自然な誇張が多い。此の人は臨時加入らしいが、全然、演伎上のトンが違つてゐる。
底本:「岸田國士全集19」岩波書店
前へ
次へ
全5ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング