たんだらう……。
女郎花 婆やさん、婆やさん……。
老婆 (答へない)
女郎花 お嬢さんは、なぜお一人きり、こゝに残つていらつしやるんですか。何かわけがあるんですか。
老婆 (暫く考へた後)あのお召物でよそへいらつしやるわけはなし……。いやいや、あの調子ぢや、どうかわからない…。さあ、困つた……。(といつて、歩きかけた時、ピアノの音が聞える。びつくりして立ち止る。が、やがて)おや、やつぱり、いらしつたんだ……。(急ぎ退場)
女郎花 あの婆やさんは聾か知ら……。
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(この時、少女が楽譜を手に持つたまま現れる)
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少女 まあ、綺麓に花が咲いて……あなたは女郎花さんね。今日は……。そつちが桔梗さんね。大きな桔梗さんね。それから芒さんもゐるのね。何時からそんなところに咲いてたの。あたし、ちつとも知らなかつたわ。みんなが、あたしのことを病気だつて、外へ出さないんですもの……。
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(老婆が、後ろから恐る恐るついて来る)
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