いまし……。婆やが面白いお話を致しませう……。
少女  今度は、芒さん、もつと、もつと悲しいお話をして頂戴……。ええ、どんなに悲しくつてもいいわ。
老婆  いけません、お嬢さま……。あなたは、御自分で病気をお癒しにならなければいけません……。一度だけ、婆やとお話をして下さいませ。さ、婆やが、悲しい悲しいお話しを致しませう。
少女  芒さん、なにをそんなに考へてるの。さ、もう、あたし聞いてるわよ。
老婆  昔々、ある処に、珠子さまといふお美しいお嬢さまが御座いました。お父さまも、お母さまも、それはそれは、珠子さまをお可愛がりになりました。珠子さまは、お美しいばかりでなく、それは悧巧な、優しいお嬢さまで、先々は、どんなに立派な旦那さまをお持ちになるかと、世間でも、みんな、お噂を致してをりました。その珠子さまが、どうしたわけか、この夏から……。
少女  (急に大声で笑ふ)いやね、ちつとも悲しくなんかないわ、そんなお話……。
老婆  いいえ、こんな悲しいお話は御座いません。この夏から、急に……急に……草花や鳥けだもの[#「けだもの」に傍点]などとばかりお話をなすつて……。
少女  芒さんつて随
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