てゐよう。ところで、もう一つ、君の誤解を解いておきたいことがある。それは、やつぱり、この序文の中で、君が婉曲に、我輩の態度を戒めてくれてゐる、そのことでだ。君は、サント・ブウヴの「月曜閑談」を例に取つて、彼が、その中で、モレ伯爵や、サンド夫人や、メリメその他を大作家の如く許してゐることが、後世、文学に疎く、十九世紀を知らない人々を如何に誤らせるかを説き、そのサント・ブウヴが、例へば、スタンダアルといふ変挺子な筆名を考へ出したベイルのことを、「あれや、小説家ぢやない」と云つたら、どうだと問うてゐるね。ところが、それは、サント・ブウヴが、メリメやサンド夫人と同じやうに、ベイルと一緒に飯を食つてゐる時の話だと云ふんだね。その筆法を、我輩がこの本の中で真似たと、君は考へてゐる。
プルウスト  真似たとは云はない。
グランジュ  学んだか、どつちでもいゝ。それから、かう附け加へてゐる。ジャック・グランジュは、好んで大芸術家の偉大ならざる半面を語つて自ら快しとする風がある。例へば、マネエの如き、この革命家が、勲章を欲しがり、サロンを目当てにのみ仕事をしてゐたと伝へるのは、甚だ怪しからんと云ふのだ。
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