め以来だ。その間に、ドレフュス事件がきつぱり二人を引裂いてしまつた。君は、その当時、いや、今でもかも知らんが、ドレフュス党であることを大変自慢にしてゐた。しかし、そんなことはどうでもいゝ。我輩は君の消息を、一から十まで知つてゐたのだ。君の家の夜会に、今度は誰々が呼ばれてゐるといふことや、君の「スワン」が、最近スカンヂナヴヤ語に訳されるといふことや、そんなことまで残らず知つてゐた。
プルウスト …………。
グランジュ そればかりではない。我輩は、到る所で、会ふ人毎に、君のことを喋舌り過ぎると思ふくらゐ喋舌つた。喋舌らずにはゐられないんだ。君の話をする時ほど、人が我輩の言葉に耳を傾けてくれる時はないんだ。そのためではない。そのためではないが、我輩は君の書くものは、全部、悉く読んでゐる。愛読…………そんなけちな読み方ぢやない。なあ、おい、マルセル、我輩は、血眼になつて読んだんだ。
プルウスト …………。
グランジュ あの筆で、いや、あの素晴らしい感覚で、あの頃の二人のことを書いて欲しかつたんだ。君の名前だけで、この本を飾るつもりはなかつたんだ。君が送つてくれた序文の原稿を受け取つて、
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