ろがよくわかる。何処を苦心したかと云へば、我輩を如何にして、「一人前の」芸術家として取扱はうかといふことだ。
プルウスト …………。
グランジュ いや、君からの手紙でも、その苦心は察しられた。君の周囲が、この序文問題で、どういふ風に動いたかといふことも、薄々知つてゐる。君には、非常な勇気が必要だつたのだ。我輩は、殆んど後悔したくらゐだ。だからこそ、君の再三の手紙に、我輩は再三答へたのだ――率直に書いてくれ。決して我輩に花を持たせる必要はない。…………待ち給へ。批評的でなくては書けないといふなら、何処をどう突いてくれてもいゝ。君が序文を引受けてくれたことだけで、君の友情は信じることができる。かう答へた。だが、君は、まさか、我輩が、その友情に縋つて、君から何ものかを求めようとしてゐたのだとは、考へてくれまいね。
プルウスト …………。
グランジュ 我輩が君のところへ押しかけない日は、君が我輩のところへやつて来た、あの頃から、もう三十年近くになる。その間にお互偶然に顔を合はせたことが、忘れもしない、たつた三度だ。同じ巴里に住んでゐてだよ。君が、ゴンクウル賞以来、我輩がニニイとの馴れ初
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