・グランジュつていふ三文画家の絵みたいだ、なんて、臆面もなく立止つて見る見物人も出て来るわけだ。
プルウスト (ひそかに眉を寄せる)
グランジュ してみると、やつぱり、君の、あの志願兵の軍服姿を、一枚描いとくんだつたな。アツシリヤの王子みたいな奴をさ。
プルウスト (笑はうとしない)
グランジュ だが、我輩の絵は兎に角、モデルの選択については、大に自慢してもいゝことがあるんだぜ。
プルウスト それは、この序文に、僕が書いたことだ。
グランジュ あゝ、さう/\。――但し自分を除いてはと、君は書いた。それを除かれてたまるもんか。君の肖像を描いたのも、君のゴンクウル賞以前だ。ジイドにしろ、バレスにしろ…………。
プルウスト (やゝ荒々しく)もうわかつてる。
グランジュ 大家になつてからの肖像なら、誰でも描く。その最も甚しいのは、ヴェロニだ。君のところへはまだ来ないかい。
プルウスト …………。
グランジュ もうぢきやつて来るから、見てゐ給へ。(間)怒つたのかい、マルセル…………。
プルウスト …………。
グランジュ 我輩のお喋舌は、つまらんだらう。
プルウスト ……
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