ストさんは、今、ストラウス夫人のお邸へおいでになつてゐます。そこで、また、イエナの広場へ引返した。今度は、――たつた今、レジャンヌ夫人の楽屋へいらつしやいました。その足で巴里座の楽屋さ。はひらうとすると、ポルト・リシュとエルヴュが廊下にはみ出してゐる。ミルボオの声だけが部屋の中から聞えるんだ。我輩は、諦めて、君が、恐らく帰り途に寄るだらうと思つたセレスト嬢のサロンへ腰を据ゑたんだ。待てど暮せど君の姿は見えない。その時のセレスト嬢は、我輩の失望を、どう云つて慰めてくれたと思ふ。
プルウスト …………。
グランジュ かう云つて慰めてくれた。――あの人は、レジャンヌ夫人と二人きりになるまで帰りはしませんよ。そして、取つて置きのフィイヌを一本あけてくれたよ。
プルウスト (目の前の書物を取り上げ、また、頁を繰りはじめる)君、済まないが、そこに紙切ナイフがあるから取つてくれ給へ。
グランジュ (ナイフを渡す)
プルウスト ありがたう。
グランジュ かうして本にしてみると、やつぱり、その序文はあつた方がいゝ。書き直して貰ふくらゐなら、止すつもりでゐたんだ。しかし、君が最後に手を入れたと
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