を病院に持つて行くと、S子は顔をそむけて泣いた。
 ――いま連れて来ちや、いや……
 そしてまた泣き入つた。
 K伯父ちやまはS子の母に云つた。
「気をつけろよ、あいつはヒステリイだぜ」

 S子は男の子を馬鹿にした。
 S子はよく独りで遊んだ。
 K伯父ちやまはS子の母に云つた。
 「あの子はあれでいゝのかい」

 K伯父ちやまは座敷の寝椅子の上で本を読んでゐた。
 S子がそつと近寄つて来た。
 ――父ちやまが坊やを連れに来たらどうするの。
 K伯父ちやまは本を伏せた。
 ――行くのさ。
 ――母ちやまは。
 ――母ちやまも一緒に行くのさ。
 ――ふむ……坊や一人ぢやいやよ。
 K伯父ちやまはS子の頭を撫でようとした。
 S子はぷいと出て行つた。
 縁側で眼を拭いてゐた。

 S子は美しい少女になつた。
 その眼は、しかし、淋しい怒りを含んでゐた。
 S子は、七歳の彼女は――何時の間にか母の悲しみを悲しむ少女になつてゐた。

 母はS子の為めに毛糸の服を編んだ。
 S子はその側らで人形の服を編んだ。
 K伯父ちやまはぼんやり煙草を喫んでゐた。
 日が暮れようとしてゐた。
 ――明日は
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