が、どうして一般にアッピイルしないか。まだ芸術的すぎるかしら……。もつとレベルを下げてみてやらう」
 観客の方では、かう考へる――「なにしろ、自分たちにはぴつたり来ない。人物の白にしても、何を云つてるかわからないところが多く、それを考へてゐるうちに、次の白を聞き漏すといふ始末だ。いや、それよりも、第一、役者と人物とがばらばらで、見てゐてはらはらしなければならない。頭を使つて冷汗をかくなんざ、近頃の芝居見物も楽ぢやない」
 どちらに理があるかといふと、勿論、後者に理があるのである。但し、見物は素人が多いのだから、この批評は素人流であり、新劇に対する理解を示してゐるとは云へないので、私は、横合から、口を挟むことにする――
「お説はいちいち御尤もであるが、これでも、彼等は諸君を馬鹿にしてゐるわけではない。彼等と雖も、職業俳優として立つ決心をつけはじめてゐるのだし、見物を悦ばすといふ点では、人知れず苦心をしてゐるのだ。先づ演し物の選択にしても、翻訳劇なら、西洋で当つたものを第一に選ばうとするし、日本のものなら、雑誌で評判のよかつたものに目をつけるし、文学として傑れてゐても、筋に「やま」がなく、
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