は、当番の今井君に眼くばせしてぢりぢり前へ出た。桂班長も、配下の通訳ほか数名を引きつれてやつて来た。
 隊長の大声叱呼する声が次第に遠くなる。味方もやつと射撃を開始したらしい。
 が、さつきから、前方の銃声とは別に、私のすぐ左二百米以内に敵がゐて、しきりにこつちを撃つてくるやうな気がしてならぬ。銃声はそれほど近く、しかも、そつちから来る弾丸が私たちの頭上を超えて右側のクリークに沿つた楊柳の枝をばらばらと落してゐるのである。
 敵味方の銃声が入り乱れるなかに、伝令の息せききつた声が耳にはひる。
 すぐ逃げると思つてゐた敵が、何時までも頑張つてゐるので、私は少し焦れつたくなつた。なるほどかういふ奴もゐるのだなと、はじめて正規兵なるものゝ馬鹿にならぬことに気がついた。
 私は稲を刈りとつた乾田の、露に濡れた土の上に腹這ひになつてゐる。せめて畔道を楯にからだを隠さうと思ふのだが、なかなか起ちあがる機会がない。やつと顔をあげて左右を見渡してゐるうちに、つひ百米ほどはなれた畑のなかに、霧でぼんやり包まれた百姓女の姿を発見して、私ははツとした。彼女は、片手にザルを抱へ、前こゞみの落ちつき払つた姿勢で
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