、それから蘇州、南京と、軍報道部の馬淵中佐が案内をされ、南京から九江、更に、そこを中心として星子、武穴、馬頭鎮等の前線に近い方面の誘導に、同じ報道部の松岡中尉が当たられた。
この間、宿泊、交通、見学のプログラム、すべて向ふ委せで、われわれは殆んど客分の待遇を受け、重要な個所を見落さなかつた代り、個人的な印象を細かにノートする暇もなく、云はゞ、中支戦場の一般概念の注入に頭を費した期間であつた。
漢口攻略戦のクライマックスとも云ふべき時機であつたから、第一線部隊に従つて、壮烈な対敵行動の場面を親しく見たい欲望は、すべての同僚の気持を急きたてゝゐたことは事実である。既に、そのつもりで、早くから単独先行したものもあるくらゐであつた。
私も亦、毎日地図を案じ、各地区に於ける戦況を綜合して、どの部隊につけば、比較的都合よく自分の望むやうな程度に、観戦の目的が達せられるかを考へつゞけた。
が、一方、九江に於ける各種の調査と、日増しに複雑化して行く街頭の現象とは、私をして今次の事変の特質と中心とが、何処にあるかといふ問題に決定的な判断を下さしめた。この判断は誠に平凡である。しかし、実感として私
前へ
次へ
全159ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング