なければならぬ。少し雑沓してゐるところでは、片手で車の梶棒を支え、片手でぼんやりしてゐる人間を押しのけながら、「ワイ、ワイ」といふ掛声をかけて歩いて行く車挽きの商売もよほど日本とは変つてゐる。もちろん歩いた方が速いにきまつてゐるが、それでも乗つてゐるものは降りやうとしない。車は文字どほり足代りなのである。ところが、これはほかの土地で聞いた話であるが、日本人がこの人力車に乗ると、覚えたばかりの「快々的《カイカイデー》」(はやく、はやく)をのべつにやるさうである。さもあらうと思ふ。
裏通りの住宅街は例の高い塀で屋敷の一廓一廓を囲んでゐるから、まるで壁と壁との間を縫つて歩いてゐるやうなものだが、それでも、ふと、四ツ辻などに出ると、急に明るく陽が射したところへ、どつしりとした土塀の線が美しく交はつて、豊かな落ちついた一廓を形づくつてゐることがある。すると、閑寂な門の構へにもなんとなく心惹かれて、潜り戸の何時か開くのをそつと待つやうな心持ちにもなるのである。
街のなかの要所々々には、巡警が立つてゐる。私は主にヘルメットをかぶつてゐたのだけれども、やはり服装で日本人だといふことがわかり、多少軍
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