これと名をあげ、潜伏中の場所まで教へた。この密告者は、何者かといふと、奇妙なことで、犯人の一人の実兄であつた。
 彼の陳述によると、局長殺害の指令を受けたのは、党軍陸軍大尉である彼の弟と、その部下二名のものであるが、その指令を実行して、服命すると同時に、上官の某はこれを即座に銃殺してしまつた。恐らく犯行系統の発覚を恐れ、爾後の行動の秘密を保つためと思はれる。弟の仇敵たるこの上官某と、部下の二名が今なほ楊州城内にゐるのである。生かしておくわけにいかぬ。ざつとこんなわけであつた。
 憲兵は直ちに出動、難なく一味を補へた。正規軍の大隊長はかくてゲリラ戦術の裏をかゝれてしまつたのである。
 警察局長は、この事件以来、洋車の前後左右に一団の護衛を附し、洋車が全速力を出すと周囲の護衛も韋駄天のやうに走るその光景を、私は屡々路上で目撃した。

     街頭の伝道

 一夕、小川部隊長と本部の食堂で会食をした。円い卓子を囲んで本部附の将校がずらりと並んでゐる。
 何れも血気旺んな青年士官であるが、隊長の盃を含んでの談論風発には、面々いさゝか気を呑まれたかたちであつた。部下の訓育に心胆を砕くといふやう
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