山本有三氏作「真実一路」について
岸田國士
婦人雑誌にかういふ本格的な小説が掲載されたことはまさに類例がないのみならず、さういふ小説が、編輯者の期待以上、読者の反響を呼んだといふこともまた、実に画期的であつたといはれてゐる。
なるほど、山本有三氏の作品は、単に良心をもつて書かれ、熱情と信念をもつて世に訴へんとするところを訴へてゐるばかりではない。主題は平明で厳粛で、祈りの歌に似た昂揚性をもち、しかも、読者の頭次第では、真実の適度の深さにおいて、力強い思想の結実を看ることができるのである。
「真実一路」は、特に、人生の幸不幸、肉親の愛憎、女性の宿命、更に偽りなき魂の昇華について語られた、深刻にして清純、波瀾に富んで、しかも、一望千里の趣を呈する大叙事詩である。
若き読者は、頁の進むにつれて、胸ををどらし、夢想に耽り、微笑し、さては、声をあげて泣くであらう。世間の親は義平の心境に粛然と己れを省み、睦子と共に、希望とはなんであるかを知るであらう。
作者の創造になる人物は、何れも平凡な生活者ではあるが、稀にみる豊富な生命感によつて各々紙上に躍動し、微妙な心理の綾が、息づまるやうな光景
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