つた最大の原因なのだ。
 この間の消息を最も痛切に感じてゐるものは、直接、それらの戯曲を演ずる俳優のうち、相当現代の俳優としての素質を恵まれてゐる人々であらうと思ふ。
 ところが、俳優といふものは、所謂「人気商売」であるところから、思つてゐることを正直に云へないものとされてゐる。
 だから私が代つて云はう。ある新劇の最も才能ある女優の一人は、嘗てこんな意味の告白をした。
「台詞を正確に云ふ工夫を演技の第一目標とし出してから、舞台が今までになく楽しく、俳優としての生き甲斐を感じ出しました。」
 かういふ女優によつて自作を演ぜられる作者こそ、脚本の書き甲斐があり、かういふ役者の才能を伸ばし得るやうな作品にして、はじめて、戯曲らしい戯曲といへるのである。
 戯曲評価の第一歩をここに置くことを忘れた従来の「新劇運動」は、今日四苦八苦の体である。自業自得といへばそれまでであるが、眼覚むることのなんぞ遅きやと嘆ぜざるを得ぬ。
 序だから、簡単に、新劇を面白くする方法を述べれば、
 第一に、新劇俳優のうち素質のないものはみんな止めてもらふこと。
 第二に、素質のあるものは、演技の第一歩から修業をしな
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