う?
 が、これは趣味の問題としておいて、幕のあがるのを待たう。
 やがて、あの歴史的な銅羅が鳴り響き、幕の向ふには、輝やかしい興奮の渦が巻いてゐるらしく思はれたが、われわれ、幕のこつちでは、くすぐつたいやうな微笑がそここゝで、「おどかすない」と云つてゐた。それは、別段、不愉快なものではなかつた。しかし、如何にも子供臭い威勢のよさで、かつ、若干異国的な不気味さを交へてゐるからだつた。
 この、どつちかと云へば、心和まぬ空気にもかゝはらず、僕は、熱心に、期待にあふれつゝ舞台に眺め入つた。
 幕間には、さすがに巨万の財力を基礎とする劇団の余裕をみせ、招待客全部に紅茶とサンドウイツチの饗応があり、僕などは危く辞退するほどだつた。
 そこで、舞台そのものゝ印象はどうであつたか?
 クツペル・ホリゾントとやら云ふ日本最初の背景装置はなるほど効果的であると思つたほか、実を云ふと、演しもの三つを通じて、その如何なる部分にも感心しなかつた。ちつとも面白くないのである。退屈至極でさへもあつた。時々は、腹立さしさに腕をよぢつた。あゝ、こんなことでいゝのだらうか?
 僕に、今夜の劇評をしろと云ふものがあつた
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