ゐたし、機到れば、築地小劇場の舞台でフランス劇の演出でもやれたらと、ひそかに考へてゐたくらゐである。
さういふ関係で、いよいよ、旗挙公演の出し物が、チエーホフの「白鳥の歌」、マゾオの「休みの日」、ゲーリングの「海戦」ときまり、初日招待の切符を受けとると、僕は、心の中で呟いた。
――出し物は、別に文句はない。今日の日本の俳優が西洋劇をどの程度までやりこなせるか、
そのための訓練と指導が、どの程度まで行はれてゐるか、まづ、これが目のつけどころだ。
丁度、その頃、巴里で識り合ひになつたHといふフランスの青年がはるばる日本にやつて来てゐた。宿をきめるまでといふので僕の家に寝泊りをしてゐた関係から、たまたま、マゾオの「休みの日」を観せてやらうといふことになつた。彼は前もつて原文のテキストを読んでおきたいといふのだが、僕は生憎、そのテキストをもつてゐない。ヴイユウ・コロンビエ一座の上演目録中にはひつてゐたことだけ知つてゐたが、かけちがつてその上演も見そこなつてゐるし、こつちも読んでおく方がいゝから、やつと人から借りて、そいつを彼に朗読させたものである。
妙なもので、やはり、素人でもフラン
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