宰氏に仏蘭西語の個人教授を受けた時分、テキストとして使つた「ラ・クールス・デユ・フランボオ」を僕がすぐに台詞調[#「台詞調」に傍点]に訳し直し、「帝国文学」といふ雑誌に出したものであるが、後に、「炬火おくり」といふ題で全く新しく改訳した。
 この翻訳の話も詳しく書くと面白いが、あまり余談に亘るからやめる。とにかく、新旧両訳を物好きな人があつたら比べてみてほしい。自分の恥を吹聴するやうなものだが、語学力の進歩といふやうなこと以外、フランスの芝居を観てからと、観ない前とで、同じものがかうも「違つて」感じられるかと思ふほどである。更めて断るまでもなく、最初の訳が二十五点とすれば、後の訳はまあ五十点から六十点の間であらうか? もう少し時間をかけ、その上原作に興味をもちつゞけてゐたら、八十点ぐらゐまでは僕でも行けるのではないかと思ふ。
 そこで、ルナアルの戯曲であるが、これは是非とも、勉強のつもりで、できるだけ丁寧に訳してやらうと思ひたち、先づ、「日々の麺麭」を訳した。毎日二三枚づゝ、気長にやつてゐると実に楽しい。
 が、実は、そんなことばかりしてゐられる身分ではないのだから、もう少し金になる仕
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