言葉にはスターといふカナをふりたいやうに思ひます。
 先程申しました、職業によつて一つの俳優的なものを身に付けてゐるといふのは、これは決して、その人達が自分達の一時代で造り上げたものではなくて、一つの伝統的遺産なのであります。さういふ遺産が、社会の種々な部門或は方面に、ちやんと出来上つた時に、初めて演劇といふ形が、非常に完成された状態で表れて来ます。さういふ時代が所謂演劇時代なんです。
 今日の日本のやうに、文化の各部門が、夫々一定した伝統的な遺産をもつてゐないで、或るものは西洋風に、或るものは東洋風に、又或るものは東洋でも西洋でもないその中間にといふ、さういふ風に生活の上で、種々な様式をまち/\に、統一なく採用してゐる時代、かういふ時代は、非常に演劇といふものが興りにくい時代でありまして、その時代には、どちらかといふと、一般の民衆がそれぞれ、自分自分の実生活の中で、演劇を育みつゝある時代なのであります。ところが今、生活の中にさういふ風に、或る芝居的なものが生れつゝあるといふこと、また個人々々が、生活の中でそれぞれ役者であるといふ時代は、同時に、かういふことが云へます。即ち我々が、芝居
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