芝居と見物
売笑的舞台への攻撃
岸田國士
現代日本の文化は、いろいろの部門に於て、もつと厳密な批判が加へられなければならぬと思ふが、私は、社会的に観て、最も時代の空気を反映すると考へられる演劇の立場から、この現状の憂ふべき傾向を指摘してみようと思ふ。
先づ東京だけについて、主なる商業劇場の出し物を調べてみると、「近代の教養ある人々」を楽しませるやうな戯曲を上演してゐることは先づ例外といつてよろしく、これを演ずる俳優のうち、高等教育を受けたといへるほどの者は一人ゐるかゐないかである。
劇場側は、所謂「高級な作品」を忌避し、それでは客が呼べぬと考へ、客さへ来れば、どんな「愚劣な脚本」でも有難さうに舞台へかける。俳優のうちには、学識は別として相当芸術的感覚を具へたものもゐるから、そんなものを真面目にやる気はせぬといふが、大体無理にでもやらされるやうな制度になつてゐる。
興行者は、劇場の文化的役割などといふものを念頭におかず、その周囲も彼等を「許し」てゐるから、「趣味の低劣さ」によつて紳士としてのプライドを失ふおそれもなく、単に事業家として成功しさへすれば、鼻を高くしてゐられるのであ
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