に進め得るといふ着眼を、僭越ながら、私は当局に求めると同時に、国民、殊に、文化的教養と進取の精神に富む青年諸君に促したいと思ふ。
 私が、特に自発的進出と云ふのは、必ずしも、これらの機関の中で働くといふ意味ではなく、寧ろ、全く民間の一篤志家として、個人の資格でもよし、団体の名においてゞもよし、ともかく、中支那の各地方々々で、文化国日本の矜持にふさはしい「生き方」をしてみせ、支那民衆の、就中知識層の日本認識の上に望ましい一転機を与へ得るやうな、事実的根拠を与へよと云ふのである。
 この意見が、抽象的すぎるとすれば、もつと具体的に述べよう。
 軍隊は志気旺盛、軍紀厳正、勇猛果敢なることによつて、支那民衆を感服せしめてゐる。特務機関は、政治・経済・思想の各面において、日本の立場を闡明し、彼等をしてわれに依らしめんとしてゐる。政治的には、維新政府を枢軸とする地方の各組織が徐々に結成され、経済的には、日本資本の注入も約束され、産業開発、税収増加も期待し得る状態にある。
 が、その方面のことは私の知識は不十分で何等専門的な発言はできないのであるが、例へば、文化部門に於ける、教育とか、宣伝とか、救済
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