作家山本人間有三
岸田國士
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)頼母《たのも》しさ
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「作は人なり」といふ言葉は、言ひ古された言葉だが、これは正面から解釈をすると当らぬ場合がある。作品の一つ一つを取つてみても、ある作家の作品全体についてみても、この人にしてこの作ありとは、聊か意外だと思ふやうなことがある。それはつまり、ある作家は、自分のうちに「有る」ものを直接に現はさず、自分の心に「映る」ものを、好んで表面に出さうとするからである。その「映り」方や「出し」方に、その作家の「人」が浮び出ると云へば云へるのだが、さういふ種類の作家は、往々、好んで、自分のうちに「無い」ものを求めて、これに興味をもつものであるから、作品の姿や、調子からでは、その「人」の姿や調子は掴み出せないのが骨である。前者が「生み出す作家」だとすれば、後者は「作り出す作家」であると云へよう。
さて、わが山本有三は、極めて例外的な作家で、この二つの傾向を、創作の二つの過程に取り入れ、「生みながら作り出す」非凡な事業に成功してゐるのである。彼の作品が、厳粛で、壮年的で、渋味を貴ぶにも拘はらず
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