囲気の稜線を見事に発見した。が、それと同時に一方の斜面への急滑走が開始されたのである。こゝにもつまり私のいはうとする「共通の観念」の省略があつた。
 作家横光の感懐は、かの独得な措辞法のなかにはないのであつて、作品の真実が、なほかつ、われ/\の胸にふれる所以は、実に、作者が所謂「欧羅巴の知性」に眼を据ゑてゐるところにあるのである。

       二

 林房雄氏の説によると、近頃、文壇の一角に「新日本主義」ともいふべきものが擡頭しつゝあるとのことである。ロマンチシスト林氏の命名であるから、この名前は、勿論、ロマンチツクに解すべきであるが、それにしても、これは、「新世界主義」といふ別名を与へるにふさはしいものではないかどうか? かうなると、日本フアツシヨの宣言めいてよろしくないといふなら、もう少し命名を延しておく方がよろしからう。
 私は私流に、あるひとつの傾向を指摘することができる。例によつて、そのなかに含まれる個々のものを、特異な面によつて区別するよりも、共通な面で捉へることに現在はより以上興味をもつといふ建前のもとにである。
 どうせ大ざつぱないひ方しかできぬが、それは、文学者と
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