公開状
岸田國士
畑中さん。
日本に於ける新劇開拓者の一人、そのあなたを、先づかう呼ばして下さい。
僕は、新劇協会の為めに、こゝで一つの苦言を呈したいと思ひます。あなたの才能と、あなたの勇気とに信頼するものは、日本の新劇団、殊に好劇家を通じて、恐らく僕一人ではないと思ひます。あなたが、経済的苦境と闘ひつゝ、遂に、われわれが望んでゐた一つの劇団、現代劇定期上演の場所と人とを有する新劇団、その実現に到達されたことは、今日、最も劇界の注意を惹くべきことです。
それに、どうでせう、あの初日です。見物が僅か三十人余り。招待券の発送が遅れたといふ理由――いゝえ、それは理由にはなりません。世間が知らないのです。あなたは、五日間、毎日三十人の見物があればいゝと仰しやるかもわからない。来たくなければしようがない。然し、知らずにゐるんです。なぜでせう。勿論、宣伝が足らない。宣伝費ですか。そこですよ、あなたに云ふのは。
僕たちは黙つてゐろと仰しやるんですか。僕たちは、少しもお力になることは出来ないのですか。見渡したところ、あなたさへそのつもりにおなりになれば、どういふ方法かで新劇協会の後援者たる
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