ことを、快く引受けてくれる人が、そしてその後援が精神的に、大きな力をあなたがたの仕事の上に与へるであらうやうな人が随分ありさうぢやありませんか。いくら世智辛い当世でも、いくら自分さへよければの時代でも、あなたの真摯な呼び声に、耳を塞ぐ人ばかりはゐないと思ひます。新聞の三行紹介、演芸欄の噂話、これだけで、あなたの手を握りに行くものはそれや僕ぐらゐなものかも知れません。
 自由劇場第一回の試演日です。話は仏蘭西のことです。自然主義の巨頭ゾラ翁は自分の短篇が脚色上演される――それを見に、細君同伴でさゝやかな小屋を訪れました。幕が下ると、いきなり舞台の上に飛び上つて、「うむ、佳い、実に佳い、なあ、エンニック(これは弟子です)――アントワアヌといふのは君か」と驚く座頭をつかまへて「あすもまた来る」かう浴びせかけました。自由劇場は、ゴンクウル、ドオデ、ルナンを立派な後援者にしました。ルメエトル、ボオエル等の名批評家を好意ある鞭撻者としました。彼の周囲には若い作家が集まりました。アントワアヌは傲岸無類な男です。彼は初演の前夜、何百通かの案内状を自分でこれと思ふ人の玄関に配りました。
 この若い感激を
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