ことによつて、「言葉」に生彩を与へることも忘れてはならぬ。
 四、最も忌むべきことは、正しい言葉を使はうとして、紋切型に陥ることである。月並な挨拶や、個性のない表現に囚はれることである。東京の女には、非常にこれが多い。殊に、女学校を出て家庭をもつた婦人といふのには、自ら社交的と信じてゐればゐるほど、この傾向が著しい。ぺらぺら喋る言葉が、一つとして「自分の言葉」でなく、従つて、真の魅力を具へてゐない。御座なりな文句ほど、その人間を安手に見せるものはないのである。
 五、東京の女学生は、同じ東京弁でも、やゝ変態的な言葉を好んで使ふ風がある。家庭で「上品ぶつた」言葉を使はせられる少女たちほど、学校で、友達とはぞんざいな言葉を使ひたがるのである。男の言葉を真似たり、「酒場《バア》」あたりから流れ出る流行語を口にしたりする。これは、しかし、意識的に、戯談に、反抗的に使つてゐる場合が多く、別に咎めだてをするには当らぬが、地方から出て来た少女が、これを真向から受け取ると厄介である。「言葉」を弄《もてあそ》ぶといふことは、一つの文化的遊戯には違ひないが、これは火遊びに類するもので、怪我をすることがある
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