現代日本の演劇
(コンテンポラリイ・ジャパン所載)
岸田國士

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)些末主義《トリヴィアリズム》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)演劇|種目《ジャンル》
−−

       一

 封建的、鎖国的な旧日本の文化は、所謂「能」と「歌舞伎」とを今日に残した。この二つの珍奇な演劇|種目《ジャンル》は、それぞれ長い伝統の上に築かれた特殊の美を誇つてをり、一つは、貴族的、武士的な趣味を、一つは民衆的、市井的な趣味を代表し、現在に於ても、熱心な支持者をもつてゐる。
 凡そ世界の舞台芸術を通じて、人間の創造的努力が、これほど犠牲的に、ある完成のために捧げられ、「常識美」の極致を徐々に、無意識に築き上げた例はないのであつて、その点、民族的なもの或は時代的なものと、個人的なもの或は天才的なものとを、その中で区別することは甚だ困難なのである。
 旧日本文化の特色は、道徳的、宗教的ではあつたが、哲学的でも科学的でもなかつた。西洋文明の移入は、恐らく芸術の分野に於て、最も相容れない二つの潮流を形づくる結果になつた。音楽、美術、舞踊
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