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○更子の家の応接間。

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彼女は横川と対ひ合つて話をしてゐる。傍らに弁護士嬉野が控えてゐる。
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横川  君がそれほど憤慨するなら、まあ謝まらせるぐらゐのことはしてもいゝだらう。
嬉野  名誉毀損で訴へてもよろしいですな。
横川  慰藉料ぐらゐ取れるかい。
嬉野  取れますとも。
更子  そんなことはどうでも、懲りさせてやることが大事だわ。
嬉野  何か、あなたの場合に限つてといふやうな、特別な名目が立つといゝですがな。
更子  あたしの場合には、名目が立つと思ふわ。法律ではどうか知らないけど、人が一番大切にしてるものを、理由なく傷けたつていふ場合はどうなるの。
横川  傷けたことになるかね。
更子  なるぢやないの。女優は、美しいつてことが、第一の誇りでせう。それが財産、それが命だわ。さうでせう、それを、あんな風に世間へ伝へられてごらんなさい、これは致命的な損害ぢやありませんか。
嬉野  よろしい。つまり、損害賠償の訴へを起せばいゝです。問題は、その金額です。
[#こ
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