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春日珠枝が、名刺をもつてはひつて来る。更子と横川とがそれを見る。
「日の出新報記者 武部等」
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更子  こつちへ通して、いゝわ。
横川  僕はゐない方がいゝだらう。(部屋を出ながら、嬉野に)君は、そばで助け太刀をしてやつてくれ。
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武部がはひつて来る。
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武部  先程は……それで、結局、どうなりましたか。(手帳を出す)
更子  (嬉野に)何でしたつけ?
嬉野  (名刺を出し武部に渡す)わたくし、かういふものです。実は今度の事件について、只今御相談を受けたのですが、御承知の通り、問題は非常にデリケートな感情の領域に亘つて居りますので、これは法律家として、理論で押して行く前に、先づ御本人の、何と云ひますか、極く特殊な心理状態を基礎として、先方へ要求を提出しなければならないと思ひます。従つて訴訟の名目は仮りに損害賠償といふことに致しますが、御本人のお心持から云へば、むしろ名誉毀損……
武部  名誉と云ひますと?

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