い。……はい……(口笛)……はい、はい……撮影中……はあ、すると、急用でも駄目ですか。それなら、あなた、そこに、紙と鉛筆ありますか。書いて下さい。「例の紛失物、小生、偶然に拾得……シウはヒロフ……拾得いたし、ついては、直接御手渡しいたしたきにつき、会見の場所、時日、御指定下されたし。」――それをね、本人に見せて、すぐ返事をして下さい。
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そこで、微々は、受話機を耳にあてたまゝ、ぢつと返事を待つてゐる。

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○天城更子の家。

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応接間である。
更子と、横川と、弁護士嬉野とが卓子を囲んで話してゐる。
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横川  さういふ席に立会ふのは、少し困るな。相手がどんな奴かわからないとすると、なほさらだ。
更子  わからないから、あたし一人ぢや心配なのよ。
嬉野  いゝところへ御気づきになりました。兎角、御婦人だけだと、かういふ問題では間違ひが起り易いです。
更子  あのダイヤが手にはひれば、千円は惜しくないわ。ねえ、あなた、用意しといて頂戴ね。
横川  千円は惜し
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