宝石商の前に立ち止る。店の中にはひる。
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微々  (件のダイヤを取り出し、番頭に)これは、いくらぐらゐのもんかね。
番頭  (受け取つて、仔細に点検した上、目方を計り)さやうですな、只今で、七百円ぐらゐもいたしませうか。
微々  これとよく似た格好で、うんと安いやつはないかね。勿論、硝子でもなんでもいゝ。
番頭  手前共にございますんでは、硝子ではございませんが、人造で、六七円からの品でございますよ。ちよつとお目にかけませう。
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微々は、出された多くの石の中から、素人ならちよつと瞞されさうな人造ダイヤを取り上げ、元のやつと比べてみる。
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番頭  さうやつて御覧になりますと、比較になりません。
微々  いや、これで結構。いくら?
番頭  その方は、七円でよろしうございます。
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微々は、金を弘つて外へ出る。何がうれしいのか、にこ/\しながら、口笛など吹く。

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○バア・クレオパトラ。


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