。何か御用ですか。
客 (名刺を出し)私、かういふものですが、ちよつと先生にお目にかゝれませうか。
微々 (名刺を読み)家庭倶楽部といひますと、雑誌ですな。漫画の御註文ですか。
客 御忙しいことゝ思ひますが、ひとつ、枉げて……是非……。えゝ、実は……毎月、人気女優の漫画を二つぐらゐづゝ載せて行きたいと存じますんですが……。
[#ここから1字下げ]
○展覧会場。
[#ここから5字下げ]
殆ど間断なく入場者があり、その列が静かに室から室を流れて行く。但し、「非売品」の札を貼つた問題の絵の前にはやゝ長く立ち止るので、そこだけは、相当の人数が一団となつて氾濫してゐる。
人々は、歩く時も、止る時も、半ば絵に、半ば床の上に眼を注いでゐることがわかる。中には、腰をかゞめて、板の隙間をのぞき込むものもある。(合唱)
受附には、六遍、わたるの両人が、得意然と控えてゐる。
[#ここから1字下げ]
○映画常設館のスクリンと鮨詰の見物席。
[#ここから5字下げ]
「天城更子主演」といふ字幕に満場の拍手。
スクリンに彼女の姿が現はれる。更に破れるやうな拍手。
「サラちやん、しつかり」とか「ダイヤモ
前へ
次へ
全49ページ中27ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング