、慈善箱を足で蹴飛ばす)
微々  あツ、はひつてます。はひつてます。
更子  これも序に、かうです。
微々  は?
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と、云ふ暇もなく、更子は、握り拳を固め、指環のダイヤに力を籠めて、件の絵を斜めに撫で下げる。彩色の中に、白く紙のめくれた跡がつく。
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微々  あつ!
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制しようとするが、もう遅い。更子は、勝ち誇つたやうに、その場から姿を消す。微々は、彼女の後を追ふことを忘れ、一心に絵の傷を手で押へてゐる。
群集のどよめき。(合唱)
六遍とわたるが駈けつけて来る。
新聞記者の一隊が微々を囲んで、切りに質問を浴せかける。武部もこの中に交つてゐる。
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新聞記者A  この処置をどうしますか。
同B  告訴される決心ですか。
同C  損害賠償の金額は?
新聞記者A  これは、しかし、もう売約済ですね。彼女の所有物なんでせう……。
同B  だとすると、損害賠償は取れませんね。これや、問題にならんよ。
同C  そんなこ
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