、それより、これはなんです、この箱は……。
微々 いや、実は、もつと大きな奴と思つたんですが、取りあへず、郵便箱を、臨時にかう……。
更子 そんなことを伺つてやしません。この文句は、随分、可笑しな文句ぢやありませんか。
微々 悪文で、どうも……。
更子 それより、あなたは、これで、私をまたまた、侮辱なさるおつもりなんでせう。
微々 いや、決して……。
更子 さうです。この絵だけでは、まだ足りないんですか。
微々 僕は、此処にをられる満場の諸君に誓つてもよろしい。この絵は、芸術家の良心に恥ぢないものです。芸術家の魂は、醜いものにすら、美しさを与へます。芸術家にとつて、侮辱に値するものは、たゞ、退屈、これのみです。あなたは、僕に取つて、得難い霊感の泉だつた。それだけで、あなたは、尊い女性だといふ証拠になりませんか。
更子 そんな理窟は伺ひたくありません。たゞ、あたしは、あなたの筆で絵にされたことを、誠に遺憾に思つてゐますの。それだけがおわかりになればよろしいんです。
微々 それだけは、どうやらわかりました。
更子 それぢや、かうしますよ。(彼女は、掲示の貼紙を引き剥がし
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