つしやるかどうか伺つておいで。若し来てらしつたら、恐れ入りますが、ちよつとお眼にかゝりたいつて、さう申上げて……。
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私語。笑声。喧騒。
やがて、三堂微々が、思ひの外慇懃な物腰で現はれる。
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微々  僕が三堂微々です。初めまして……。
更子  おや、あなたが三堂さんですか。ぢや、昨日の方は……? まあ、なんでもよござんす。弁護士から、直接お話することは禁じられてをりますけれど、昨日お願ひしたことが実行されてをりませんので、ちよつと、その理由を伺つておきたいんですの……。
微々  はあ、この絵を撤回することですか。それは、つまり理由としては、さうするのが惜しいからです。
更子  惜しいとおつしやいますと……。
微々  つまり、残念なんです。
更子  私がたつてと申上げてもですか。
微々  あなたがたつてとおつしやつても、僕が困ると云ふんですから、これはちよつと、やはり困ると思ふんです。
更子  では、そのことは、外の方法で解決をつけませう。
微々  どうか、さう願ひたいもので……。
更子  いゝえ
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