し、極度の不満を抑へてゐる様子である。やがて、また、それを取り上げ、しげ/\と見つめながら、「さう云へば、どつか似てるかしら……」と呟く。
笑ひたくもあり、泣きたくもあり、彼女は、手鏡を取り上げて自分の顔を映して見る。
それから、呼鈴を押す。
珠枝が現はれる。
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更子  (件の漫画を、説明の部分だけ片手で押へながら、珠枝に見せ)これ、だれだかわかる?
珠枝  (むろん直ぐにわかり、笑ひだしさうになつたのを、相手の眼付で、それを察し)さあ……。
更子  わからない筈ないわ。
珠枝  わかりませんですねえ。どなたでせう。
更子  どなたなんて云はなくたつていゝよ。どうせ、へつぽこ画かきなんだもの。三堂微々なんて、だあれも知りやしないだろ。
珠枝  漫画家つて、何うしてかう、意地が悪いんでせう。こんな風に描かれて、愉快になるひとなんか、ないと思ひますわ。
更子  だからさ、ちやんと云つとくれよ、これがあたしだと見えるか何うか。
珠枝  (当惑して)あら、これが先生……いやですわ……先生がこんな……
更子  失敬ぢやないの第
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