る。午後十時。

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○更子の寝室。

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寝台で眠つてゐる彼女。
老婢よしが新聞の束を枕下に置いて去る。

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○応接間。
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珠枝  先生はまだ眠つてらしつて?
老婢  まさか狸寝ぢやありますまいね。こないだみたいに、胡瓜の尻尾を口へ入れてたらさ、あんた、「婆や何たべてたの」なんて、後で云はれるんだから、油断がなりませんよ。

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○寝室。

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更子が眼をさます。半身を起し、新聞を一つ一つ取上げて、演芸欄に日を通す。「ふん」とか、「ちえツ」とか、「へえ」とか、ひと通りの挨拶。さて、最後の一枚を取り上げ、
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更子  どうしたつて云ふんだらう。近頃、さつぱり名前が出なくなつちやつたわ。そのくせ、何本も取つてるんだけど……。
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が、彼女の眼は、急にある頁に吸ひ寄せられる。彼女の漫画が出てゐるのだ。険しい表情。新聞を荒々しく投げ出
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