一。ねえ、さうだらう。これを見たら、だれだつて、あたしに愛想をつかしちやふわ。
珠枝 そんなこと、ありませんわ、先生。漫画なんてだれでも真面目に見やしませんし、それに、新聞はその日かぎりですもの。
更子 冗談云つちやいけないよ、あんたこれ読めないの。この絵がちやんと展覧会に出てゐるんだからね。まいにち、何千人だか何万人だか知らないけど、この絵の前に立ち止つてさ、やれ何のかんのつて、あたしの噂をするんだらう。これ位ひどい侮辱が、世の中にあるかしら。おまけに、この絵の下には、あたしの名前が麗々しく書いてあつてさ。「やあ、似てる/\」なんて、一人が云つて御覧よ。みんなが声を揃へて笑ふにきまつてるわ。今まで撮つた写真の中で、あたしが何んなにチヤーミングでも、そんなことは、みんな忘れちまつてるわ。この次の写真なんか、だあれも見に行きやしないわ。あたしは、もうこれでおしまひよ。いゝわ、いゝわ、あたしが何うするか見てゝ御覧。
珠枝 でも、そんなことおつしやつたつて、先生……。向ふでも、悪気があるわけぢやないと思ひますわ。
更子 (声を張り上げ)悪気がなくつて、こんな顔が描けるかい。何さ、この
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