れた。アンドレ・スュワレスの言を俟つまでもなく、「舞台が詩人を駆逐した」時代だ。
 しかし、われわれから見れば、現在の日本の有様はどうであらう。「詩人が舞台を棄てた」とも云ひ得るのだ。ここで云ふ詩人とは(断るまでもなく)真の作家の謂だ。
 仏蘭西に於て、「舞台が詩人を駆逐した」時代にこそ、黙々として、詩人は、「一人で観る芝居」を書いてゐた。そして、その芝居が、次の時代に、凱歌をあげた。舞台を捨てた日本の詩人等は、今、何をしつつあるのか。少数の消息ではあるが、私は、それを知り得た悦びをひそかに感じてゐる。

     ○右、翻訳劇の功罪

 果して、この秋には、簇々と新しい劇団が生れるとの報道が伝へられた。メンバアとプログラムのみを見て、どの劇団がどうかうといふ批判は差控へよう。私は、どのグルウプにも恩怨はなく、どの看板にも好悪がないのだが、大体、その色分けをしてみると、三通りになる。第一が、新劇畑の俳優が、同志を糾合して、一時中断された仕事を継続しようとするもの。第二に商業劇場に属する若手の俳優が、既成演劇の殻から出て、現代的呼吸を存分に舞台で見せようとするもの。第三に、学生乃至その年
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