を下げた。偉くなると昔のことは忘れたがる。相手は、昔のことばかり云ひたがる。お互にわるい癖だ。
 一方に、大家あり、流行作家あり、一方に駈出しあり、不遇の自称天才あり、これを総称して劇作家と云ふも、その実は、全く別種の人間である。一方が王侯の生活を営み一方が道ばたの溝掃除に等しい暮しをしてゐるからと云つて、それがあながち不公平だとは云へないわけである。然るに、弱いものが集つて団体を作り、少し強味を感じ出すと、その団体は頭と尾と妙に反りが合はなくなる。その団体はつまり頭のためにのみ存在するやうな観を呈して来る。尾の方が、それでは承知しない。此の尾の方に属する連中が、頭の連中に対抗して更に一団を形ることになる。それが、新しく起つた劇作家組合である。つまりプロ劇作家協会である。プロ劇作家は左傾党である。従つてサンヂカリズムの共鳴者であるのみならず、モスコオの国際労働組合と気脈を通ずる連中である。早く云へば革命党である。この革命党、政治的主張は、甚だ過激であるが、職業の立場からは、なかなか如才がない。一方、筋肉労働者と握手して、君等こそ、われらのカマラアドと誓ひを立てながら、組合で劇場を立てる
前へ 次へ
全12ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング