つたサルマンが、ポオの搾取に遇つてゐたわけである。それは表面の問題で、実際、二十を越えたばかりのサルマンが、自作を上演して貰へると知つたら、どんな契約にでもサインしたに違ひない。処が、其のお蔭で、此の青年は新進作家の錚々たる列に加へられる。さうなると、もうポオから小僧扱ひにされるのが癪に触る。そのうちに、出世作「影を釣る人」を持つて細君と一緒に旅行がしたくなつた。ポオが承知しない。契約書をつきつける。制作劇場以外では上演しないことゝ書いてある。一度制作劇場を飛び出したサルマンは、将来自作を自分が演ずることはできないわけである。そんな無法な話はない。こゝが論争の起点である。アントワアヌやベルンスタインなどが頻りにサルマンの肩を持つてポオの横暴を責めた。ポオは飽くまでも契約書と、二人の関係と、当時の情誼的交渉とを楯に取つて譲らない。制作劇場でなら何時か上演する。それ以上云ふことはないと頑張る。その間に、今日まで作者に支払つた上演料などの真相が暴露して、サルマンに同情するものが殖えてくる。サルマンはたうとう劇作家協会に加入して、その力を藉りることになり、結局、云ひ分だけは通つたが、少々男振り
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