g大する言葉の幻象《イメージ》である。
彼の作品を透して、声と色彩の陰に潜む作者の吐息を、しみじみと感じ得ないものがあつたら、文学はその者の為めに開かれざる扉である。
彼は何人の前にも扉を開かうとはしない。
彼の劇作は、先づ『人参色の毛』から紹介せらるべきであつた。
僕は、山田珠樹君がその翻訳に着手しつゝあることを知つた。
僕は『日々の麺麭』と『別れも愉し』の二篇を訳すことで満足した。
山田珠樹君は僕の信頼畏敬する学友である。
こゝに紹介する二篇は、自然を愛し人間を嫌ふルナアルの、最も多くその人間に接触したであらう巴里生活の記録である。
雅容と機智を誇るわが巴里人《パリジャン》は、一世の皮肉屋|狐主人《メエトル・ルナアル》の筆端に翻弄せられて、涙ぐましきまでの喜劇を演ずるのである。
然しながら彼は、巴里人の、仏蘭西人の、心底《しんそこ》からの人間らしさには、流石にほろりとさせられる弱味を有つてゐた。
そして、英吉利人の、あの人間臭さには、常に顔を顰めた。
北欧の、又は現代日本の、各人物それ自身が、勿体らしく何か考へながら物を言ふ、さういふ戯曲に慣らされた
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