]ひました。ヘンリツク・イプセンが舞台に初めて「生活の断片」を示し、メエテルリンクが見事に「争闘」のないドラマの型を築いたほどの花々しさはなくとも、過去三十年の劇界は、文学的にも、舞台的にも、著しい進化の跡を遺してゐます。そして現代は最早、例外が一つの規則であるかの観をさへ呈してゐるではありませんか。かういふ時代に、その表面に現はれた傾向のみに眼を奪はれて、この根柢をなすところの一つの流れ、即ち戯曲の伝統的本質を顧みなかつたならば、その新しさは単にかの 〔me'tier〕 の上の新しさ、それも技術にまでは到達しない嗤ふべき「素人の物真似」に終るでせう。
第三に、私は、「舞台を透して戯曲を見るな、人生を透して戯曲を観よ」と云ふ注意を守りたいと思ふ。これはどういふことかと云ふと戯曲を味はひ、その精神に触れ、その戯曲のもつ真の美を発見するのは、舞台のみを観た眼では駄目だといふのです。直接人生を視た眼でなければならないと云ふのです。至極平凡なことのやうですが、これが作家修業の要諦ではあるまいかと思はれます。この修業は、やがて、自ら筆を執つて戯曲を書かうとする時、徒らに舞台的因襲に拘束されず、自
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