由に、大胆に、劇的霊感を紙上に活かし得る力となるのではありますまいか。
私は、劇作家が、その想像力を限られた舞台上にのみ働かすことは愚の極みであると思ふ。実際に上場出来ないやうなものでは困ると云ふかも知れない。しかし、現在の劇場人等が、実際上場出来るとか、出来ないとか云ふのは、何の標準にもなりません。今日上場出来ないものが明日は上場出来る。これが、演劇史の存在する理由です。しかし、私の云ふのは、さういふ意味ぢやない。劇作家は、人生を舞台の中に入れることを以て能事終れりとせず、舞台を人生の中に持ち出せと云ふのが私の主張です。人生とは、現実の人生、あるがまゝの人生、あなたにも私にも見える人生ではない。「作家の眼」にだけ見える人生です。現実と夢とを超越した人生です。かくあらば面白からんといふ人生です。
なぜかと云へば、人生を舞台の中に入れる時、その人生は往々ひからびてしまふからです。その人生の中では、各々の人物が、今迄はどんな生活をしてゐたか忘れてしまつたやうな顔をしてゐるからです。そこで、気を揉むのは作者です。観てゐられないのは見物です。
人生の中に舞台をもつて行つて御覧なさい。人生
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