これは戯曲の文体と云ふ問題になるから、こゝでは云はない。たゞ次に述べようとする俳優の台詞が、動もすれば聞きづらいと云ふのが、その罪の一半を翻訳者に於て負担するのが至当であると思ふ故に、こゝでこれだけの事を云つて置く。

 舞台意匠について――
 外国劇の上演と云ふことについては、色々の不便や困難が伴ひ、俳優も舞台監督も人知れぬ苦心をすることであらうと思ふが、その苦心こそはやがてその上演の結果を左右するものであることを忘れてはならない。
 先づ此の脚本の舞台はブルガリヤの或る小さな町であるとすれば、或る程度までブルガリヤの地方色を出すことが必要ではあるまいか。――その必要はない。――よろしい。それならば何故、舞台をもつと様式化しなかつたか。第一幕のペトコフ家令嬢ライナの寝室の如きは純然たる写実でありながら、その見すぼらしさは、木賃宿の一室と選ぶ所はない。勿論ペトコフ家の令嬢が寝るやうな寝台を一つ買ふにも三百円や四百円はかゝるのだから、そんなことの為めに金を使へと云ふのではない。只どうして色彩的効果によつて舞台に或るリュックスの感じを出し得なかつたか。

 演技について――
 私は先
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