的な事件」がある、それを作者は顧みないでゐるやうに思はれることである。しかし、この作者の住んでゐる世界は、「新しい演劇」を生む一つの世界に違ひない。それを何よりも尊く思ふ。

 井東憲氏の「貞操を」――同じ雑誌に載つてゐるのだが、今日までついうつかりしてゐて読まなかつた。佳いものかも知れない。
 同人雑誌「青空」では飯島正氏の「海浜挿話」を読んだが、活字が悪いので印象をめちや/\にされた。作中の人物が、あの活字のやうな形に見えてしやうがなかつた。それが若し作者の好むらしいマリヴオーダアジユと一致するものでなければ結構である。
 同じく小冊子「街」の一角に見た「トロイの木馬」は注目すべき作品である。作者坪田勝氏が、たゞ形式上の新味を見せようとしたのなら、必ずしも感服はできないが、全篇をあの独白で貫ぬくために、人物の心理的リズムに適度のテンポを与へ、感情の飛躍を鮮やかにコントロールしてゐる手並は、たしかに非凡である。殊に、この特殊な形式が要求する文体の上に、十分の用意を加へて、立派な劇的効果を収め得たことは正に推賞に値ひする。この人は劇作家である。しかも有望な劇作家である。
 幕切に女が箱
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