衆には受けさうだ。また「人をのろへば穴二つ」といふ教訓も含んでゐて、カフエーなどに出入する不良青年少女を戒めるに足るものである。藤井氏年来の主張を裏切らない作品である。従つて同氏のものとしては佳作に属すべきものでせう。
 つぎに高田保氏の苦心になる新劇雑誌「テアトル」――これでは金子洋文氏作「牝鶏」を拝見した。例によつて「はつらつたる野趣」に富む戯曲である。たゞ、人物の心理的発展がやゝ機械的で、しかも、その機械的なことが割合に喜劇的効果を助けてゐない憾みがある。恐らく観察の狂ひであらう。最後に、娘の方にまで卵をこしらへさせる、とはちとあくど[#「あくど」に傍点]くはないか。これは必ずしも趣味の問題ではあるまいと思ふが、金子君、どうです。これを読み終つた時、ふと同君の名作「盗電」の美しい場面を思ひだした。
 鈴木善太郎氏の雑誌「劇場」は、同氏の作「東京の眠る町」を掲載してゐる。これはたしかに新時代の生活だ。少くとも、戯曲に取りいれられたある新時代の生活だ。但し、作者が比較的その新時代を軽く取扱つてゐるやうに見えるのはどうしたものか。軽く取扱つてゐるといふ意味は、もう一歩先にもう少し「精神
前へ 次へ
全17ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング